今井優輔  加藤未央 
2015年03月29日

政治家×フットボールという異色の挑戦
松本市議会議員を目指す今井優輔の物語③
「松本市議会議員の報酬は850万円。そこを削減していく」

政界においては“弱冠”と言ってもいいはずだ。26歳の若者が、長野県松本市の市政に挑戦している。幼少期にサッカーと出会い、学生時代に技術と精神面を養った。夢を追い、そして挫折した。その経験を経て、這い上がる力を得たのだろう。今井優輔という男は、未来のフットボールと政界の架け橋になるかもしれない。これはまだ見ぬストーリーの序章だろうか。彼の異例ともいえるチャレンジを、そして彼のルーツを探っていく。

text by Mio KATO
photo by Yoshinobu HONDA

文=加藤未央

 インタビューが進むにつれて、今井優輔という人物のことがなんとなく分かってきた。彼は、「行動力」の人なんだと思う。でもその彼を突き動かすもっと本質的なものとはフットボール愛なのか、郷土愛なのか、それとも他のものなのか……一体何だろうと疑問が湧いてくる。それとやっぱりよく分からないのは、「市議ってなに??」ということ。自分の無知さをさらすようで恥ずかしいけれど、その辺りも彼に聞いてみた。

地元・松本はやっぱり「人」があったかい

本田 やっぱり松本という場所への思いは強いですか?
今井 地元ですし自分の故郷ですから、それは強いですね。世界中の都市や日本中の都市を見てきた中で、自分が生きていきたいと思える場所は松本でした。ここで自分は何ができるのかなって考えた時に、ギリギリまで自問自答して考えたんですが、結局はそれが政治家だったので出馬しようと決意しました。
加藤 ギリギリまで迷った中で政治家以外の道ってありました? 何で悩みみましたか?
今井 自分は政治家になってもよい人間なのか、政治以外にやろうとしている方向はないのかとかいろいろと考えました。
本田 最終的にやりたいことがあって、それを叶えるための一つのプロセスが政治家ということなんですね?
今井 そうですね。地方が抱えている問題は深刻ですが、これから30年後もここに住みたいと思える行政や自治体になっていかなくてはいけないと思っています。自分が守りたい松本を、消滅させたくないので。
加藤 では松本の良いところってなんですか?
今井 やっぱり場所が良いですね。すぐに東京に出られるし、遊ぶにしても山は近いし、海だって近いですし。東京へのアクセスが良い分、自分の夢ややりたいこととか、チャンスをつかめる機会も多いと思います。
加藤 東京へのアクセスの良さやチャンスをつかめるつかめないの可能性の大きさは対外と比較した時の魅力だと思うのですが、松本自身の良さってどこでしょう?
今井 それはやっぱり「人」が良いんじゃないかなって思いますね。自分の地元だからですかね、あったかいです。出馬に関しても皆さん応援してくれますし。
加藤 そういった中で、地元で心に残っている出来事はありますか?
今井 高校で静岡へ行ってから拠点はずっと県外だったのですが、この2月から松本に帰って来て、ありがたいことにみんなウェルカムで。選挙に出馬するって知ってる人は「私は何をすればいい?」って言ってくれたりもするんです。それは涙が出るくらい嬉しかったですね。選挙活動でチラシを作って各家庭や施設のポストへ配布していますが、その時に会ったおばちゃんにも「がんばれ!」って言ってもらえて元気をもらいました。あったかいですね、地元は。やっぱり選挙活動にはお金が掛かるので、手伝ってもらえるのは嬉しいです。東京のように集合住宅が少ないのでポスティングも大変で、協力してくれる人がいることで出費を抑えられたりとか、そういった面でも本当に助かります。

財源を確保するために議員報酬と政務活動費を削減したい

加藤 えっと、そもそもの質問になってしまいますが、今井さんが現時点で目指している「市議」って何ですか?
今井 まず「市議」と「県議」の違いはエリアの違いです。松本市のことを扱うのは松本市議会。長野県のことを扱うのは長野県議会。市議会とは、市税で集めたお金をどう使うのか、条例の取り決めとか、そういう松本市内でのルールを決める団体のことです。
本田 では市議会議員になると、例えば今までの生活でどんな変化があるんですか? また、議員それぞれが個々に活動するのでしょうか?
今井 松本市の議員は基本的には31人で構成されていて、議題に対して可決なのか反対なのかという議論をしています。それで、最終的に多数決で決議します。
本田 それは議会のことだと思いますが、普段はどんなことをしているんですか?
今井 副業は問題ないので、他で仕事をしている人もいます。基本的には市民の声を聞いてコミュニケーションを取ったりしています。議会は年に数回しかないので、そういう意味では時間はものすごくありますね。
本田 実は、市議会議員という人たちが普段から何をしている人たちなのか正直よく分からないんです。
今井 東京でいうと区議会議員と一緒ですよ。
本田・加藤 いや、区議会議員も分からない……。
今井 区の中で条例を立てる役割の人です。例えば新宿でいうと歌舞伎町というエリアがありますよね。新宿区の中での問題があるから新宿区ならではの条例を決める、といった感じです。
本田 市議会議員に選ばれた代表者(松本市なら31人の代表者)が年に何回かある議会以外の時間ってどういうふうに使っているんですか?
今井 個人によって全く違うと思います。僕はまだ実情を見ていないのでなんとも言えませんが……。ただ自分自身が政治家になろうと思った最大の理由は、ハッキリ言って政治家に対しての疑う心が強いからです。「本当にやっているのかな?」って。ちょっと言い方が悪いかもしれないですが、選挙の時だけ現れるイメージがありますし、政治とお金の関係がハッキリしないグレーな人が多くいるのも問題です。政治家に対して信用も信頼もできないというのが僕個人の率直な意見です。だからこそ政治家と国民の間に距離がありすぎるんですよね。そこが最大の問題だと思います。税金でお金をもらっているんだから、「松本市は今こういうことが問題で、こういうことをやろうとしています」と説明責任を果たすことが最低限の誠意だと思っています。今何をしているのか分からないというのは最大の問題。だから皆さん政治離れしてしまうし、政治家を信頼できないんだと思います。
本田 ちなみに自分が議員になれたとして、話し合う議題はある程度決まっているものなんですか? それとも自分で提起することはできるんですか?
今井 自分から提起していけますね。
本田 じゃあ実際に出せる例でいいのですが、現時点でフットボールに関わる今井さんとして、市議会で掛け合ってみたいことを教えてください。
今井 それは2つあって、まずはハード面での差をなくしたいです。市内のグラウンドにスポーツに適した明るいナイター照明を付けたり、体育館でもサッカーやフットサルができる環境を整える。あとは、収入面で勉強やスポーツをやりたくてもできない子どもたちのために、例えば塾代の助成バウチャーみたいなものを配布するというようなこともやっていきたいことの一つです。そういった財源を確保するためにも、議員報酬の削減と政務活動費の削減をやっていきたいです。年収でいうと議員報酬とボーナス、政務調査費を合わせて松本市議会議員は850万円以上をもらっています。サラリーマンの平均年収の2倍以上ですよ。財源を確保するために自分たちの収入を減らすなんてきっと多くの議員は賛同してくれないと思いますが……(苦笑)。

 あれ、ROOTSっていつから政治を語る媒体になったんだろう……。でも、普段何気なく抱いていた疑問が少しだけ解決したような気がする。つまり、やっぱり議員って何をしているのかよく分からない、ということ(いや、解決にはなっていないのか)。でもそこをもっとオープンにしていきたいというのが今井さんの思いであって、もし今井さんが議員になって、ちゃんと決意を成就できたなら、松本市のフットボール事情は大きく変わっていくんじゃないだろうか。次回はいよいよラスト、今井優輔という人物を、もうちょっとだけ掘り下げてみたいと思う。たぶんそこに、私が一番気になっている、彼の本質が見えてくると思うから。

今井優輔(いまい・ゆうすけ)
1988年5月19日生まれ、長野県松本市出身。小学1年生の時にサッカーを始め、高校では静岡県の名門・清水商業高校に進学するも、高校でサッカーを断念。しかしサッカー選手を支援するという新たな夢を抱き、大学在学中に起業して法人を設立。卒業後は世界30カ国、日本全国47都道府県を視察で巡った。2014年には出資者、COプロデューサーとして映画を製作し、同年に大阪市議会議員秘書に就任し政治家秘書として現場で研鑽を積むなど異色の経歴を持つ。現在は、「ふるさとの未来」に大きな不安や危機感を覚え、地元の松本で市政に挑戦している。195センチの長身で、田中隼磨(松本山雅FC)はジュニアチーム時代の先輩にあたる。株式会社トラオムジャパン代表取締役社長、NPO法人セダックサッカースクール理事長。





加藤未央(かとう・みお)

1984年1月19日生まれ、神奈川県出身。 2001年に「ミスマガジン」でグランプリを獲得し、05年には芸能人女子フットサルチームにも所属。07年から09年まで「スーパーサッカー」(TBS)、09年から15年まで「スカパー!」 のサッカー情報番組「UEFA Champions League Highlight」のアシスタントを務め、Jリーグや海外サッカーへの知識を深めた。現在は、ラジオ番組「宮澤ミシェル・サッカー倶楽部」などにも出演し、フットサル専門誌「フットサルナビ」でも連載中。15年4月からオフィシャルブログ「みお線」もスタートした。http://ameblo.jp/mio-ka10/

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