日本のスポーツ界において、外国出身選手が国内でプレーすることは今現在、何も珍しいことではない。それと同様に、ナショナルチームにおける外国出身選手の帰化ということにおいても、実はかなり前から様々な競技で受け入れられてきた。事実、サッカーやフットサルでも、以前から日本国籍を取得した外国出身選手が日本代表に名を連ねてきている。それに、ラグビーでは全く異なる規定が設けられ、「日本人じゃないと日本代表になれない」ということですらない。そこで浮かんでくるのは、外国出身選手はなぜ日本代表を選んだのかという疑問だ。そこには、決して「日本代表」だけがゴールではないという、選手それぞれの理由があるようだった。
Text and Photo by Yoshinobu HONDA
文=本田好伸ラグビーワールドカップ2015で日本代表が南アフリカ代表に歴史的な勝利を飾り、五郎丸歩というスター選手の台頭やその後の躍進とも相まって、国内に空前のラグビーブームを巻き起こした(そんなラグビー界は、本日11月13日に国内最高峰の「ジャパンラグビートップリーグ」の新シーズンが開幕!)。そんななかで、代表チームに所属する31人中10人の、外国籍選手や日本に帰化した外国出身選手が話題に上ることがあった。
これまで、日本のスポーツ界でも、“外国人”が日本国籍を取得してプレーするのはよくあることだった。サッカー日本代表でも、ラモス瑠偉や呂比須ワグナー、三都主アレサンドロ、田中マルクス闘莉王など、帰化選手が度々、日本代表に名を連ねてきた。それにラグビーでは、ナショナルチームであっても、居住する国や地域をベースにするという背景があり、それ自体は決して非難されるようなことではない。
ただそうしたなかで常々思うのは、彼らはどうして日本代表としてプレーするのか、帰化した選手を含めて、外国籍選手がなぜ日の丸を背負って戦うことを選ぶのか、ということだ。そんな疑問に、とあるフットサル選手が一つの答えを示してくれた。
現在のフットサル日本代表には数名の帰化選手が所属している。2年連続でFリーグ得点王、最優秀選手賞を獲得した名古屋オーシャンズの森岡薫もペルー出身であり、2012年に帰化の申請が下りて日本代表入りを果たした。そして15年4月に帰化が認められた名古屋の酒井ラファエル良男もまた、直後の5月から代表メンバーに名を連ねている。
「僕はブラジル生まれのブラジル人だったけど、祖父や祖母の影響でブラジルでも日本の文化に触れていた。だからこそ、ブラジル代表になることと同じくらいの気持ちで日本代表になることに誇りを持っている。そして来日してからはさらにその気持ちが高まった」
一度でも日本代表として公式戦でプレーすると、もう二度と他国の代表としてはプレーできない。ブラジル代表を狙えるポテンシャルを秘める酒井は、そこに迷いがなかったのだろうか。「僕は日本文化から影響を受けていたし、日本を背負って戦えることが幸せ。そこに迷いはなく、100パーセントの気持ちで日本を選んだし、それで日本代表になるチャンスをもらえた」
酒井の言う「そこに迷いはなかった」という言葉には、もう一つの感情がある。それは、酒井が帰化という道を選ぶ際、必ずしも日本代表が第一目的ではなかったということ。「日本代表に選出される可能性があることは確かにプラスアルファだったかもしれない。でも一番は、この日本というすばらしい国で、より長く生活できる可能性が高まるということ。日本が大好きだからこそ、そこが最大の理由だった」
酒井と同じような思いを持って日本人になることを選んだブラジル人がいる。ペスカドーラ町田の守護神、イゴールだ。彼は現在も帰化申請中だが、許可が下りれば、酒井と同様に日本代表に選ばれる可能性がある。それでもイゴール自身は、「日本代表になるためだけに、日本国籍を取得しようとしているのではない」と話している。イゴールの胸中には、「日本に永住して、子どもを作って、家族と一緒にこの国に住みたい」という強い思いが第一にある。
彼らはなぜそこまで日本に愛着を持っているのだろうか。特にイゴールは、酒井とは違って日系ブラジル人ではないにも関わらず、だ。「来日した際に、最初に受け入れてくれた印象がすごくよくて、今でもありがたい気持ちを感じている。それに日本は、学校も行政も、公共機関もしっかりしているし、生活していく上ですべてが整備されている。将来、子どもができたときに、安心して育てていくことができるし、彼らに明るい未来を見せることができる。今のブラジルでは子どもが何の苦労もせず、危ない目にも遭わないで育っていけるかどうかというのは簡単なことではない。日本のように、しっかりとした教育を受けられて、頑張ればそれなりの成果を得られる社会ではない」
当然、ブラジルには親や兄弟、友人がいる。それでも帰国ではなく、日本での永住を選択した一番の理由は、「家族との生活」にあった。現在、イゴールには一緒に暮している日本国籍を持つフィアンセがいるが、まだ籍は入れていないという。(それこそプラスアルファとして)打算的に籍を入れてしまえば、帰化への道が早まるかもしれない。でもそれをしないのは、イゴールの人柄に他ならない。「帰化を理由に結婚するのは嫌だから。そうではないと彼女が分かってくれたとしても、周囲にはそう思う人がいるかもしれない」。どこまでも真面目な人物なのだ。
話を元に戻すが、酒井にしろイゴールにしろ、彼らにとっての日本代表は、あくまでも日本人として生活する過程にあるものでしかない。それに、イゴールの言葉を聞いて感じることがある。「日本国籍を取得して、そのまま日本代表になれるわけじゃない。呼んでもらえるように、もっともっと頑張らないといけないし、今のままではまだ足りないと思っている。でも国を背負って世界と戦うのは本当に大きなことだし、もし日本代表になれたら、全身全霊でプレーする」。そこにある思いは、日本人と何ら変わらないのではないかということだ。
最初に、「なぜ日の丸を背負って戦うのか」と書いたが、それを競技のトップの舞台で戦う日本人に問うのはあまりにも失礼な、聞くまでもないことだろう。つまりそういうことだ。日本人として国を背負って戦うことは誇りであるだろうし、想像を絶するような喜びがあるはずだ。それと同じように、帰化を望む外国籍選手、あるいは帰化した選手は、日本人として生活して、その延長線上にある日本代表で戦うことに、何の疑問も持っていないのではないだろうか。
「ワールドカップで優勝する気持ちで戦っていく」(酒井)と、当然のように日本代表としてのプライドと高い目標を持ち、他の日本人選手に勝るとも劣らない気持ちでプレーを続けていくのだろう。
本田好伸(ほんだ・よしのぶ)
1984年10月31日生まれ、山梨県出身。 日本ジャーナリスト専門学校卒業後、編集プロダクション、フットサル専門誌を経て、2011年からフリーランスに転身。エディター兼ライター、カメラマンとしてフットサル、サッカーを中心に活動する。某先輩ライターから授かった“チャラ・ライター”の通り名を返上し、“書けるイクメン”を目指して日々誠実に精進を重ねる。著書に「30分で勝てるフットサルチームを作ってください」(ガイドワークス)