Fリーグ  Fリーグ報道官  SuperSports XEBIO Fリーグ  コラム  フットサル  加藤未央  女子 
2015年09月26日

「Fリーグ報道官」という新たな一手を打った
フットサル界が直面する、乗り越えるべき巨壁。
抜擢された加藤未央にできることとは何か

ROOTSの副編集長、加藤未央が「Fリーグ報道官」に就任した。「Fリーグの魅力を伝える。もっと盛り上げる」という思いを持って、Fリーグの会場などで活動していく。ただこれは、単なる“初の試み”ではない。というよりも、それで終わらせてはいけない。可能性に満ちた大きなチャレンジであり、任命された加藤未央だけではなく、ROOTS自身にも与えられた責任ではないだろうか。今回のリリースをきっかけに、今一度、現状を見据える。

Text and Photo by Yoshinobu HONDA

文=本田好伸

「Fリーグ報道官」の適任者は、加藤未央を置いて他にはいない

 日本フットサルリーグ(Fリーグ)が25日、加藤未央の「Fリーグ報道官」任命を発表した。SuperSports XEBIO FリーグやSuperSports XEBIO Fチャレンジリーグの試合会場、SuperSports XEBIO CUPの会場などで活動していくとのこと。自身も、「Fリーグの魅力をもっと伝えたい。リーグをもっともっと盛り上げていきたい」とコメントした。

 現時点では、実際にどのような活動をしていくのか、そもそも「Fリーグ報道官」がどのような存在なのかは分からない。そして、そもそもなぜ今、「Fリーグ報道官」が必要なのかも明かされていない。そんな中、その裏に見え隠れするフットサル界の苦悩と、乗り越えるべき大きな壁、そして今後の展望を考えてみる。

 まず「報道官」とは何なのか。アメリカの大統領の公式スポークスマン(政府や団体の意見などを発表する担当者)を務める職だったり、日本でも「外務報道官」という役職を聞いたことがある。そんな印象と照らし合わせて考えると、「Fリーグ報道官」は「Fリーグに関する情報を発信する人物」というようなものだと思われる。加えて、リーグが何かを催す際に、アイコンのような役割としてお客さんの前に登場する人物、といったところだろうか。そうすると加藤未央の就任は、まさに絶妙な人選ではないだろうか。

 ROOTSで副編集長を務めるだけではなく、フットサル専門誌や過去にはサッカー専門誌の連載、大規模な民間大会の公式ライター、フットボール界にとどまらない執筆活動などを通じて、加藤未央の「メディア人」としての才気は、もはや業界内に知れ渡っている。さらに、スーパーサッカー、UEFAチャンピオンズリーグハイライト、宮澤ミシェル・サッカー倶楽部といったテレビ・ラジオ媒体のアシスタントやパーソナリティ、イベントMCなど、アイコン的に表舞台に立つタレント業でも、申し分ない実績を持つ。現在のフットサル界において、「Fリーグ報道官」の適任者は彼女を置いて他にはいないだろう。

 ただし、この新しい試みの背景には、リーグが抱える苦悩を感じざるを得ない。

Fリーグが直面している、“フットサル界”という壁

 2007年のFリーグ創設以来、リーグおよび日本フットサル界は、大きく発展してきた。選手の環境、クラブの体制など、リーグを構成する主役の環境面は、創設以前からはるかに良化し、体裁も整ったように感じる。仮に、日本フットサル史の始まりを1989年の日本代表の世界選手権デビューとすると(あくまでも仮に)、そこから26年のうち、89年から06年の17年間と、07年から15年の8年間では、圧倒的にこの8年間の成長度が高い。数年前、フットサルの創世期を知るレジェンドたちは、「この5年間の成長速度はものすごい」と口をそろえた。全国リーグができることが夢のまた夢のような、想像もしていなかった時代にフットサルを始めた彼らからしても、全国リーグが整備され、年々その争いも激化し、はたまた各年代のサッカー協会主催の大会が構築されたり、グラスルーツへの普及が進み、女子代表も創設され、フットサル・ワールドカップで初の決勝ラウンド進出を果たし、U-18日本代表も創設されるなんていう今の状況は、「発展してきた」と言えるに違いないだろう。

 一方で、リーグの骨格を成すFリーグ自体の規模感が大きくなっているとは言えず、あれこれと打開策を打ち出してきたものの、一般の大衆を広く巻き込むようなムーブメントは生まれていない。12年に北澤豪がFリーグCOO補佐に就任し、Fリーグを広く普及させていくアンバサダーも増えた。観客動員数も、試合数がシーズンによって異なるものの、12-13シーズンから微増している。それでも、リーグやクラブの収入、選手の待遇など、なかなか好転しない状況が毎年のように問題視されている。つまり、簡潔に言うと、リーグもクラブもお金がないのだ。

 07年から7年間、森永製菓株式会社がタイトルスポンサーを務め、リーグに投資してきた。もちろん、スポンサーはそれだけではないし、今年からゼビオグループが新たなオフィシャルパートナーとなり、リーグをサポートしている。各クラブも、ユニフォームスポンサーをそろえ、大小様々なサポートを受けている。ただし、そうしたスポンサーフィーは潤沢ではない。本題からそれるため割愛するが、リーグや各クラブの収益、経営状況は、なかなか厳しい状況にあると言わざるを得ない。

 そうした中で、Fリーグにおける多くのスポンサーが示す姿勢は、共創路線だ。「お金を出すから、対価に見合う効果的なアイデアを出してくれ」というスタンスではない。「一緒にアイデアを出し合って、(お客さんを巻き込んで)リーグを盛り上げましょう」という姿勢でリーグを支えている。それは非常に好意的で積極的、能動的なものであり、お金のあるなしに関わらず、できることをしていこうというポジティブなものだ。でも一方で感じるのは、お金を掛けなければ打開できない一線、越えられない壁が存在するということ。そう、紛れもなく、Fリーグが直面しているのは、“フットサル界”という壁だ。フットサル界を飛び越えたPRがなかなかできていない。

投資、もしくはお金を生むアイデアを持つ人、企業、業界の力

 今シーズンの開幕節では、会場の国立代々木競技場第一体育館にナオト・インティライミのファンが駆け付けた。ナオト・インティライミが、Fリーグの公式ソング「ブレイブ」などを披露するミニライブやエキシビションマッチを行うということで、例年とは異なる顔ぶれが観客席に陣取っていた。ただ、そのファンは圧倒的な数ではなく、かつライブ後に残りの試合を見ないまま会場を後にする人も多かった。

 スポンサーや、ナオト・インティライミのような協力関係にある人など、日頃はフットサルと異なるフィールドで活動する人物や企業を引っ張ってくることで、フットサル界に興味を抱く人を増やそうと、あらゆる策を講じてきた。でもやはり、そこに人が集まらず、お金も生まれない。壁は高くそびえ立ったままだった。

 ここで話を最初に戻すと、「Fリーグ報道官」に期待されるのもそこではないだろうか。つまり、フットサル界から外に届く一手を打ち、お金を生んでいくことだ。フットサルに関わるほぼすべての人が願っているであろう「リーグが盛り上がり、発展していく」ということは、こう言い換えることもできる。「チケットを買ってリーグを見に来る人が増え、投資するスポンサーが増え(一企業からの投資額が増え)、選手やクラブ、引いては僕らメディアの人間も“食るようになる”」ということだ。その意味で、壁を越えるための投資をする、もしくはお金を生むアイデアを持つ人、企業、業界の力が必要になってくる。

 その人、企業、業界をいかに引っ張ってこれるかというのが、現在のFリーグ、フットサル界の最重要テーマだと感じている。だからこそ、仮に「Fリーグ報道官」がFリーグや準会員リーグ、一般向けの大会の会場に足を運び、その模様をレポートしたり、その場所で挨拶をする、情報を発信するという取り組みだけにとどまってしまったら、おそらくこの活動は停滞する。当然ながら今現在、フットサルを愛し、リーグの盛り上げに一役買っているファンやサポーターを大切にすることも重要であり、現場のレポートや情報発信もすべきことだろう。でも、本当に考えるべきは、そのもう一歩先だ。

 Fリーグは今回、「女性や若い世代など、より多くの方々にFリーグやフットサルの魅力を発信していただくため、今回の任命へ至った」と説明している。だからあえて言うが、発信した先に何があるのかを見据えてやらないといけない。「Fリーグ報道官」を、単なるアイコンで終わらせてはいけない。そして、「加藤未央だからこそ届く人、企業、業界」が必ずあるはずであり、そこを生かし切れるかどうかに懸かっている。当然それは、加藤未央だけでも、Fリーグだけでもなく、取り巻く関係者、さらにはROOTS自身も、その一手を考える責任がある。

 壁の向こう側にたどり着けるかどうか、そこにあるはずの明るい未来を見れるかどうか。メディアも含めて、フットサル界に足を突っ込む人間は、もはや運命共同体だ。新しいチャレンジはもう、スタートしている。
150926_Fleague_002





本田好伸(ほんだ・よしのぶ)

1984年10月31日生まれ、山梨県出身。 日本ジャーナリスト専門学校卒業後、編集プロダクション、フットサル専門誌を経て、2011年からフリーランスに転身。エディター兼ライター、カメラマンとしてフットサル、サッカーを中心に活動する。某先輩ライターから授かった“チャラ・ライター”の通り名を返上し、“書けるイクメン”を目指して日々誠実に精進を重ねる。著書に「30分で勝てるフットサルチームを作ってください」(ガイドワークス)

ライター『本田好伸』の記事