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2015年09月15日

つくばFCが株式会社パソナと連携協定を締結
アマチュア選手の雇用先とセカンドキャリアを支援し
今後のフットボール界のロールモデルを創造していく

つくばFCが総合人材サービスを行う株式会社パソナとパートナーシップ協定を締結した。全国に先駆けて行うこの連携協定は、日本のフットボール界が直面する“選手の環境”という課題の解決策の一つであり、選手自身の将来を含めたサポートをしていくという貴重な施策だ。こうした取り組みが全国へと広がっていくことが期待されている。

文=本田好伸

働きながら競技を続けられる環境の整備を進める

 9月9日、茨城県つくば市を拠点とするつくばFCを運営するNPO法人つくばフットボールクラブが、人材派遣や人材紹介、再就職支援などの総合人材サービスを行う株式会社パソナとのパートナーシップ協定を締結した。

 この締結による具体的な施策は、「来シーズン中に少なくとも2人の選手にパソナから仕事を紹介し、就業を実現させる」こと、トップチーム全選手に対して月に一度、練習と仕事の両立に関するカウンセリングやセカンドキャリアを見据えた「仕事相談会を開く」こと、「ビジネスマナー基礎研修」、「セルフブランディング講座」、「ファイナンシャル講座」といった「スキルアップ講座を行う」ことなどが予定されている。

 1976年に創業したパソナは、すでに約10年に渡ってアーティスト活動や競技スポーツに取り組む個人に対して上述のような支援を行ってきたが、今回初めて企業間の仕組みとして、フットボールクラブとの連携協定を結んだ。フットボール界のみならず、競技スポーツの世界において、「働きながら競技を続けることのできる環境整備」のロールモデルを創造するべく、つくばFCとパソナがその第一歩を踏み出すということだった。
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「派遣」という形態と「セカンドキャリア」を見据えること

 この取り組みが画期的な点はいくつもある。一つは、派遣という形態だ。派遣とは、そもそもがフレキシブルなものであり、例えば夕方から始まる練習に参加するために、就業時間を調整することも可能だ。実際に、10:00〜18:00という通常の勤務時間を、練習参加に間に合わせるために、9:00〜17:00に変更したというケースや、午前中のトレーニングに合わせて、14:00〜19:00で営業職に就くという例などもあるようだ。

 また、パソナが雇用して企業に派遣するという形態であるため、定期的な健康診断や福利厚生、有給休暇なども完備されている。これにより、遠征のために平日休暇が必要な場合や、移籍などで勤務先を変えないといけないといった場合にも対応していくことができる。パソナの佐藤司代表取締役社長も、「よりスポーツに専念できる環境を提供し、仕事のストレスを減らしてあげることができる」と語っている。

 もう一つはセカンドキャリアだ。佐藤社長は、「スポーツをしている間はいいが、大切なのは現役を退く時に何をしていたいのか。パソナで支援することで、そうしたことがロングタームで効果が出てくる」と、今回の利点を話す。

 最近では、なでしこリーグを戦う選手の環境面が話題に上ったが、なでしこリーグのみならず女子サッカー全体、JFLや都道府県リーグの男子サッカー、完全プロクラブが全国に1クラブしかないフットサル(Fリーグ)、女子フットサル、全国リーグが整備されていないビーチサッカーなど、フットボール界の選手の環境は決して右肩上がりの成長を続けているとは言えない。

 そうした事情を踏まえても、こうしたフットボールクラブと手を組む企業の出現は、まさに今後のロールモデルとなるべきことだろう。現時点のフットボール界でも、各クラブ内で選手の雇用を斡旋したり、スポンサー企業に就職の面倒を見てもらうといった例は多い。ただし、そうしたクラブ主導のサポートには限界があり、選手個々のスキルアップを狙った講座の開設や、セカンドキャリアを見据えた職業の提示などは簡単にできることではない。その道のプロによるカウンセリングや講座を受け、将来の自分がどうしたいのかを考えながらプレーヤーとしての道を歩むことは、プロではないアマチュア選手(プロでも大事なことだが)にとって必要不可欠だろう。
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「将来を考えながらレベルアップできるクラブ」という選択肢

 つくばFCは現在、男子トップチームは関東サッカーリーグ1部、女子はプレナスチャレンジリーグに所属し、将来的にはJリーグやなでしこリーグ入りを目指している。石川慎之助代表は、「セカンドキャリアでより良い人生を歩むためには、サッカーをしている間にも準備しておくべき」と話し、「全国規模の会社と縁を持つことができるのは非常にありがたいこと。こうした取り組みが、茨城から全国へと広がっていけば嬉しい」と今回の連携協定の締結に期待を寄せる。実際にこの活動が定着していけば、「クラブのレベルが高いから」、もしくは「自宅から近いため」といった理由でクラブを選んでいたこれまでの選手の基準が、「将来を考えながらレベルアップできるクラブだから」という視点に変わっていく可能性も十分にある。

 そして今回の締結の“縁”は、クラブ内にあった。昨年までは東京都の強豪、スフィーダ世田谷FCに所属し、今シーズンからつくばFCレディースに移ってきた三間睦美選手がパソナに勤務していたことから、今回の話が進んでいった。三間選手は、「以前はアルバイトをしながらプレーをしていて、両立の難しさに困っていた時期があった。そうした経験もあって、パソナの環境は優れていると思い、会社に提案してこの事業に参加させてもらった」。彼女自身は今、パソナの派遣社員としてパソナの仕事に従事しているが、正社員と同じように、新規案件の獲得や企業訪問、契約者のフォローなどの営業職に就きながら、サッカー選手との両立を実現している。

 もしかしたら、「派遣」という形態を理解しないまま敬遠し、立ち止まっている人がいるかもしれない。雇い主にしてもそうだ。ただ、「『こういう働き方をしたい』という人に対応することが会社として必要になる。そうすることで人が残っていってくれる」(佐藤社長)と、現在の企業は、「働き手のニーズ」を鑑みることが大事な時代になってきている。佐藤社長は、「スポーツやスポーツ選手に興味を持つ企業は増えている」と語るだけに、スポーツ選手を雇う企業はこの先、ますます増えていくだろう。

 今回の締結で、つくばFCとパソナではまず、レディースチームに所属する選手の就業をサポートしていく。現在27名の女子選手のうち、学生が3名で、残りの24名は社会人として働いているというが、その形態はアルバイトなど様々だ。それに、この時期から来シーズン加入するメンバーの問い合わせも増えていく。全国に先駆けて、この先“つくば発”のロールモデルを創造していけるだろうか。

 多くのサッカー選手に立ちはだかる仕事とサッカーの両立、そしてその先に続く人生のプランニングという難問の解決策の一つとして、地域から新たな取り組みが発信されていく。





本田好伸(ほんだ・よしのぶ)

1984年10月31日生まれ、山梨県出身。 日本ジャーナリスト専門学校卒業後、編集プロダクション、フットサル専門誌を経て、2011年からフリーランスに転身。エディター兼ライター、カメラマンとしてフットサル、サッカーを中心に活動する。某先輩ライターから授かった“チャラ・ライター”の通り名を返上し、“書けるイクメン”を目指して日々誠実に精進を重ねる。著書に「30分で勝てるフットサルチームを作ってください」(ガイドワークス)

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