8月20日から23日に仙台で開催された第2回全日本ユース(U-18)フットサル大会は、岡山県の作陽高等学校が初優勝。前回大会の雪辱を果たすべく、およそ5カ月間にわたってフットサルのトレーニングを積んできた彼らは、「高校サッカー部」の新たな可能性を示した。そして大会それ自体もまた、フットボール界の明るい未来を示唆する可能性に満ちたものだった。
Text and Photo by Yoshinobu HONDA
文=本田好伸8月20日から23日に、U-18年代のフットサルの頂点を決める大会「第2回全日本ユース(U-18)フットサル大会」が宮城県のゼビオアリーナ仙台と仙台市体育館で開催され、岡山県作陽高等学校が初優勝を飾った。
2014年に大会が創設され、今年で2回目となった。昨年は、決勝戦で愛知県の名古屋オーシャンズU-18と宮城県のFC聖和学園が激突し、突出した足元の技術を披露した聖和学園が初代王者に輝いていた。国内におけるこの年代のフットサルはまだ発展途上にあり、日頃からフットサルに取り組むチームとクラブチームを含め高校サッカーに取り組むチームがどのような試合を繰り広げるのかが、大きな見どころとなっていた。
迎えた今大会も、各地域大会を勝ち上がった16チームが4チームずつ4グループに分かれて1次ラウンドを戦い、8チームがノックアウト方式の決勝ラウンドへと進む方式でぶつかると、初日からハイレベルな攻防を繰り広げた。
前回大会王者のFC聖和学園は、SC聖和学園、聖和学園フットサル部と、今大会に兄弟チームが3チームそろった。地元開催ということもあり、多くの観客が詰め掛け、会場は大いに盛り上がりを見せた。昨年同様、彼らが披露するテクニックは際立ち、決勝ラウンドへと進出したFC聖和を筆頭に存在感を示していた。
ただ今年は、彼ら以上のテクニックを持つチームが出現した。京都府立久御山高等学校だ。1次ラウンドの沖縄県立読谷高等学校戦、北海道清水高等学校戦では、出場した全選手がゴールへと向かって個々の高いスキルを繰り出していた。そんな個性あふれるチームに、1次ラウンドで土を付けたのが、静岡県代表のエスパッソU-18だった。
ブラジル人のモンテイロ・マルコス監督の下、日頃からフットサルを専門にトレーニングする彼らは、個人と組織を融合させた戦いで異彩を放っていた。最終的に、6試合で17ゴールを挙げた市川宙、弱冠15歳にしてフットサルのキモを熟知していたイワハシナオキ、主将としてチームをまとめ、ピッチでも献身的なプレーで陰ながら味方を支え続けた宇田川幸輝など、フットサル界の未来を背負って立つであろうタレントがそろっていた。
同じく“フットサルプロパー”として臨んだPSTCロンドリーナU-18は、3位決定戦でエスパッソを下した。Fリーグの湘南ベルマーレの育成組織であり、高校生Fリーガーとして同チームでプレーする植松晃都を中心に、組織的なフットサルの動きや、そのなかで個人を生かす戦いを示した。
他にも、フットサルへの高い理解度を示した札幌大谷高等学校や、2年連続出場で頂点を狙った帝京長岡高等学校サッカー部など、大会を彩ったチームは枚挙にいとまがない。特に帝京長岡は、他チームの高校サッカー部チームが2軍、3軍が中心という選手構成だった一方で、普段のサッカーの舞台でも公式戦でスタメン出場するようなメンバーが名を連ねた。それはU-17サッカー日本代表の大桃海斗などそうそうたる顔ぶれであり、主将の小林拓夢や高橋響、石田健太郎は、昨年同様に主力としてピッチに立ち、基礎技術の高さとスピード感あふれる連係で存在感を示した。
そんな見どころ満載の今大会で決勝へと進出したのは、2年連続出場の作陽高校と初出場の北海道釧路北陽高等学校だった。作陽高校は「昨年、名古屋オーシャンズに敗れて、『何をやっているんだ。見返してやろう』という気持ちで準備してきた」(三好達也監督)と、3月に3年生の勇姿を募り、今大会の優勝を目標に据えてトレーニングを重ねてきた。
一方、釧路北陽高校は、「諦めないこと、最後まで自分たちの戦いをやろうとする力、相手との駆け引きを最後までやることという3つが素晴らしく成長した」(叶内保監督)と、大会を戦うなかで1試合1試合、成長を遂げてきた。相手の隙を突いてワンチャンスをモノにするうまさと、相手に応じて自分たちの戦い方を選択できる順応性を示し、決勝戦でも終盤まで五分五分の展開を演じた。
そんななか、最後に勝敗を分けたのは、作陽高校が今大会に懸けた「思い」ではないだろうか。サッカーでは出場機会を得られなかった選手が、今大会で成長し、冬の高校選手権でメンバー入りすることもあるという。「フットサルがサッカーに生きる」という信念を胸に本気でフットサルに取り組み、仲間とともに頂点を目指した。そんな思いがボールに宿り、3-3の同点で迎えた残り38秒、カウンターから決定機が生まれた。左サイドでボールを持った眞中佑斗がカットインして放ったシュートがゴールに突き刺さり、今大会で最高の歓喜が起こった。
決勝戦は昨年とは異なり、高校サッカーチーム同士の対戦となった。ただ昨年以上に、試合内容はフットサルの特徴を踏まえたものだった。これが示すものは、U-18年代のサッカーチームのフットサルへの理解の浸透と、彼ら自身の適応力だ。帝京長岡高校の古沢徹監督が「あと数年もしたら、高校サッカーのチームがフットサルチームには勝てなくなってくる」と話していたが、もしかしたらその逆であり、フットサルチームは今のうちに高校サッカーチームをけん制しておかないと、彼らに一気に先を行かれてしまうかもしれない。
クラーク記念国際高等学校やロンドリーナ、エスパッソといったフットサルチームが、フットサルの特性を生かしながら存在感を示していた一方で、彼らには高校サッカーチームには敵わない、「層の薄さ」という弱さも露呈した。フィジカルやスピードだけではなく、固定メンバーに頼らざるを得ない状況では、連戦を勝ち切るのは容易ではない。優勝した作陽高校は、「2セット+α」というフットサルの定石通りのメンバーで臨み、個々の能力を最大限に発揮できる環境を自分たちで作り上げたいた。
U-18年代のフットサルは、今大会で大きく進化していることを証明した。それは全くもって明るい材料であり、その先のサッカー、フットサルのトップカテゴリーへと続いていく、大きな可能性だ。作陽高校の初優勝で幕を閉じた今大会は、フットボール界に大きな価値を示す、非常に意義深い大会となった。
本田好伸(ほんだ・よしのぶ)
1984年10月31日生まれ、山梨県出身。 日本ジャーナリスト専門学校卒業後、編集プロダクション、フットサル専門誌を経て、2011年からフリーランスに転身。エディター兼ライター、カメラマンとしてフットサル、サッカーを中心に活動する。某先輩ライターから授かった“チャラ・ライター”の通り名を返上し、“書けるイクメン”を目指して日々誠実に精進を重ねる。著書に「30分で勝てるフットサルチームを作ってください」(ガイドワークス)